- オペアンプのオフセットについて知りたい
- オフセットって、オフセット電圧のことですか?
- オペアンプのオフセット電圧って、どのように測定するのですか?
- オフセット電圧を調整してキャンセルする方法は?
こんな質問にお答えします。
本記事を書いている私は、電子回路設計の仕事をして10年になります。
今回はオペアンプのオフセットについて解説します。
オペアンプのオフセットは、理想的には存在しない方がいいです。
なぜなら計測の誤差になるからです。
例えば、実際は25℃なのに、温度計で27℃と表示されたら、正確に計測できてないですよね。
しかし現実のオペアンプでは、オフセットは存在します。
そのためオフセットを理解して、正確に計測する方法を知っておくと良いです。
本記事を読めば、オフセット電圧や電流だけでなく、測定方法、調整方法について理解することができます。
5分で読めますので、ぜひ最後までご覧ください。
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オペアンプのオフセットは2種類ある
オペアンプのオフセットは、電圧と電流の2種類があります。
- オフセット電圧
- オフセット電流
この2つは、
オフセット電圧 → 入力オフセット電圧
オフセット電流 → 入力オフセット電流
というように、「入力」という言葉をつけて表現することもあります。
しかし、本記事では「入力」という言葉はつけないで表現します。
それでは、1つずつ解説します。
オペアンプのオフセット電圧とは
オペアンプのオフセット電圧とは、
入力の「プラス端子(+IN)」と「マイナス端子(-IN)」の間に発生する電圧のことです。
とはいえ、上図のようにオペアンプを単体で考えたときに発生する電圧ではなく、
反転増幅回路や非反転増幅回路で使用したときに発生する電圧のことです。
反転増幅回路
なぜ、このときに発生する電圧なのかというと、理想的には0Vだからです。
具体的に解説します。
オペアンプ単体と比べて、反転増幅回路や非反転増幅回路には、ある特徴があります。
それは、抵抗R2を介して、出力電圧(Vout)を入力端子にフィードバックしていることです。
このフィードバックにより、
入力の「プラス端子(+IN)」と「マイナス端子(-IN)」の間は0Vになります。
これはイマジナリーショートです。
しかし、これは理想的な話です。
実際のオペアンプでは、完全に0Vにはなりません。
「プラス端子(+IN)」と「マイナス端子(-IN)」の間に、少し電圧が発生してしまいます。
これをオフセット電圧と言います。
それでは、なぜ少し電圧が発生するのか、その理由について解説します。
オフセット電圧が発生する理由
オフセット電圧が発生する理由は、オペアンプの内部回路を構成するトランジスタにバラツキがあるからです。
オペアンプの内部回路
参考記事:オペアンプ内部の等価回路【入力段の動作原理から解説します】
オペアンプの内部回路には、
入力の「プラス端子(+IN)」と「マイナス端子(-IN)」に接続されるトランジスタがあります。
これらのトランジスタにはバラツキがあります。
例えば、トランジスタのベース-エミッタ電圧(VBE)は、
トランジスタの個体によって、0.60Vだったり、0.65Vだったり、0.70Vだったりします。
この少しのバラツキによって、
オペアンプの「プラス端子(+IN)」と「マイナス端子(-IN)」は、完全に同じ電圧になりません。
そのため、実際のオペアンプにはオフセット電圧が発生するのです。
よくある質問:オフセット電圧が発生する理由は、他にもありますか?
電気的な理由に注目しがちですが、
オペアンプに「力」が加わることによって、オフセット電圧は発生します。
オペアンプの内部回路を構成するトランジスタに「力」が加わると、
ピエゾ抵抗効果という現象が起こり、これによってオフセット電圧が発生します。
対策としては、オペアンプ内部のトランジスタに「力」が加わりにくいように、
サイズの大きな部品を選ぶと良いでしょう。
また可能であれば、基板を設計するときに、
基板から「力」の加わりにくい中央付近に配置するのも1つの方法です。
このように、オペアンプにはオフセット電圧が発生します。
よくある質問:オフセット電圧が発生しないオペアンプはありますか?
現実には、全くオフセット電圧が発生しないオペアンプはありません。
ただ最近は、オフセット電圧が小さいオペアンプも出てきています。
色々なメーカのオペアンプを見てみると良いでしょう。
またオフセット電圧だけでなく、オフセット電流も発生します。
次はそのオフセット電流について解説します。
オペアンプのオフセット電流と発生する理由
オペアンプのオフセット電流とは、
- プラス端子(+IN)に流れるバイアス電流
- マイナス端子(-IN)に流れるバイアス電流
この2つの差のことです。
2つのバイアス電流が同じ大きさなら、オフセット電流はありません。0Aです。
しかし、バイアス電流にもバラツキがあるので、完全には同じになりません。
具体的に解説します。
このバイアス電流は、オペアンプの内部回路を構成するトランジスタから流れています。
オペアンプの内部回路
この図を見て気づいた人もいると思いますが、バイアス電流は、ほとんどトランジスタのベース電流です。
このベース電流には、トランジスタの個体によってバラツキがあります。
なので、2つのバイアス電流は同じにならず、オフセット電流が発生します。
よくある質問:バイアス電流の向きは、左向きですか?
オペアンプの内部回路を構成するトランジスタによって、左向きだったり、右向きだったりします。
なぜなら、NPNトランジスタで構成されるオペアンプもあれば、
PNPトランジスタで構成されるオペアンプもあるからです。
つまり、
PNPトランジスタ → 左向き(オペアンプから出る方向)
NPNトランジスタ → 右向き(オペアンプに入る方向)
ということです。
参考記事:トランジスタの回路図記号と矢印の向きの意味【トランジスタの種類も解説】
よくある質問:
バイアス電流の意味はわかったのですが、この値が大きかったりすると、
どのようなデメリットがあるのですか?
バイアス電流が大きいと誤差が大きくなるというデメリットがあります。
例えば、オペアンプの入力に、抵抗が1MΩの電子部品を接続したとします。
仮に信号源が0Vで、バイアス電流が1uAだったとすると、オームの法則より
直流抵抗1MΩ × バイアス電流1uA = 1V
となります。これが抵抗の両端電圧に発生します。
オペアンプの増幅率が10倍だとすると、
1V × 10倍 = 10V
となり、これが出力電圧になります。
信号源は0Vなので、出力電圧も0Vになるのが理想的ですが、
バイアス電流による誤差によって、出力電圧は10Vと大きくズレてしまいます。
なので、バイアス電流が大きいと誤差が大きくなるというデメリットがあります。
つまり、バイアス電流は小さい方が良いということです。
ところで近年、オペアンプを構成するトランジスタは
「バイポーラトランジスタ」ではなく「FET」が主流となっています。
FETが主流になったことで、そもそもバイアス電流自体が小さくなり、
オフセット電流を気にする必要がなくなってきています。
しかしFETになっても、オフセット電圧は発生しますので、
次はオフセット電圧の測定と計算方法について解説していきます。
オペアンプのオフセット電圧測定と計算方法
オフセット電圧の測定方法と計算方法
オペアンプのオフセット電圧はどのように測定すれば良いでしょうか?
反転増幅回路で解説します。
増幅率は ( R2 / R1 ) = ( 100k / 10k ) = 10倍 です。
そもそも、オペアンプの反転増幅回路が良くわからないという方は、下記の記事を参考にしてください。
参考記事:オペアンプ反転増幅回路で増幅率を計算【適切な抵抗値の求め方】
オフセット電圧を測定するには、入力電圧VinをGND(0V)に接続します。
入力電圧Vinを0Vにして出力電圧Voutを測定すれば、オフセット電圧が分かります。
ただし、オフセット電圧がそのまま出力電圧Voutになるわけではありません。
例えば、
オフセット電圧が0.1mV(=100uV)のとき、出力電圧Voutは1.1mVです。
オフセット電圧が0.5mVのとき、出力電圧Voutは5.5mVです。
オフセット電圧が1mVのとき、出力電圧Voutは11mVです。
このようにオフセット電圧が、
1 + ( R2 / R1 ) = 1 + ( 100k / 10k ) = 1 + 10 = 11倍
となって、出力電圧Voutに出てきます。
なので、
入力電圧Vinを0Vにして出力電圧Voutを測定し、11で割り算すれば、オフセット電圧を求めることができます。
それでは、なぜ
1 + ( R2 / R1 ) 倍
なのでしょうか?
その解説をします。
出力電圧がオフセット電圧の1+(R2/R1)倍の理由
オフセット電圧は、
1 + ( R2 / R1 ) 倍
となって、出力電圧Voutに出てきます。
ここで、
反転増幅回路の増幅率 → ( R2 / R1 ) 倍
非反転増幅回路の増幅率 → 1 + ( R2 / R1 ) 倍
なので、反転増幅回路は ( R2 / R1 ) 倍では?と思った人もいるかもしれませんね。
なぜ反転増幅回路なのに、オフセット電圧は、
1 + ( R2 / R1 ) 倍
なのかというと、ポイントは2つです。
- 抵抗R1と抵抗R2に流れる電流は同じ
- 抵抗R1の電圧はオフセット電圧と同じ
これらについて、具体的に解説します。
抵抗R1はオペアンプのマイナス(-)端子に接続されており、
入力電圧VinをGND(0V)に接続したことで、もう片方はGND(0V)に接続されています。
オフセット電圧は
「マイナス(-)端子」と「GND(0V)に接続されるオペアンプのプラス(+)端子」の間に発生します。
つまり、抵抗R1の両端には、オフセット電圧がそのまま加わります。
そのため、オームの法則により
抵抗R1に流れる電流 = オフセット電圧 / R1
となります。
これが抵抗R2にも流れますので、オームの法則により
抵抗R2の両端電圧 = R2 × 抵抗R1に流れる電流
となります。
よって、
抵抗R2の両端電圧
= R2 × 抵抗R1に流れる電流
= R2 × ( オフセット電圧 / R1 )
= ( R2 / R1 ) × オフセット電圧
となります。
入力電圧VinはGND(0V)に接続されているので、
出力電圧Voutは「抵抗R1の両端電圧」と「抵抗R2の両端電圧」の足し算になります。
ゆえに、
出力電圧Vout
= R1の両端電圧 + R2の両端電圧
= オフセット電圧 + ( R2 / R1 ) × オフセット電圧
= { 1 + ( R2 / R1 ) } × オフセット電圧
となり、
出力電圧Voutは、オフセット電圧の
1 + ( R2 / R1 ) 倍
となるのです。
よくある質問:
反転増幅回路でオフセット電圧を測定する方法は分かりましたが、
非反転増幅回路ではどのように測定すれば良いでしょうか?
反転増幅回路と同じです。
理由は、入力電圧VinをGND(0V)に接続すると、反転増幅回路も非反転増幅回路も同じ回路になるからです。
具体的に回路図を比較してみます。
反転増幅回路
非反転増幅回路
一見、違う回路に見えるかもしれませんが、入力電圧VinをGND(0V)に接続すると、同じ回路になります。
同じに見えない人は、以下の3つの観点で回路図を比較してください。
- オペアンプのプラス(+)端子は、GND(0V)に接続されている
- 抵抗R1は「オペアンプのマイナス(-)端子」と「GND(0V)」に接続されている
- 抵抗R2は「オペアンプのマイナス(-)端子」と「出力電圧Vout」に接続されている
これらの観点から、どちらも同じ回路であることが分かります。
よって、非反転増幅回路のオフセット電圧を測定する方法は、反転増幅回路と同じです。
よくある質問:実際にオフセット電圧を知るために出力電圧を測定したのですが、
入力電圧:0V → 出力電圧:14V
入力電圧:1V → 出力電圧:13.8
でした。電源電圧は15Vです。
何か間違っているでしょうか?
おそらく間違っています。
出力電圧が飽和している(電源電圧15Vに張りついている)可能性が高いので、
作成した回路が間違ってないか確認しましょう。
よくある質問:オフセット電圧は調整して0Vにした方が良いでしょうか?
出力電圧の誤差として気になるなら調整した方が良いでしょう。
「気になる」というのは、
例えば、オペアンプから0~5Vの電圧を出力できる場合、1Vでもズレていたら気になりますよね。
2.5Vを出力しようとしても、3.5Vが出力されてしまうので。
しかし、出力電圧が1mVしかズレてなければ、特に気にならないかと思います。
実際の製品では、誤差の許容範囲が規定されているので、それを基準に調整するかどうかを判断します。
というわけで、オフセット電圧を調整することもあるので、
次はオフセット電圧をほぼ0Vにする方法、つまり調整してキャンセルする方法を解説します。
オフセット電圧を調整回路でキャンセルする方法
オフセット電圧を調整してキャンセルする方法は、以下の2つです。
- オフセット電圧を調整できるオペアンプを使用する
- オフセット電圧を調整できるように回路をつくる
1つずつ解説していきます。
オフセット電圧を調整できるオペアンプを使用する
オフセット電圧を調整できるオペアンプは、私の思いつく限りでは、以下の3つです。
- LM741(テキサスインスツルメンツ)
- OP07(アナログデバイセズ)
- LF356(テキサスインスツルメンツ)
LM741を例として端子を見てみると、オフセットを調整するための端子(OFFSET NULL)があります。
テキサスインスツルメンツ LM741 のデータシートより抜粋
この端子は、オペアンプの内部回路を構成するトランジスタに接続されています。
テキサスインスツルメンツ LM741 のデータシートより抜粋
ここに接続して、トランジスタのバラツキをキャンセルします。
では、何を接続するかというと、可変抵抗を接続します。
可変抵抗は端子が3つあり、2つをオペアンプに接続したので、
残りの1つをマイナス電源(-V)に接続します。
これはオペアンプによって、プラス電源(+V)だったりします。
メーカのデータシートをよく確認しましょう。
この状態で可変抵抗のボリュームを回して(抵抗値を変化させて)、
トランジスタのバラツキをキャンセルさせます。
それでは、何を見てキャンセルできたと分かるのでしょうか?
それは出力電圧Voutです。
オフセット電圧が1mVのとき、出力電圧Voutは11mVでしたね。
オペアンプに可変抵抗を接続し、徐々にボリュームを回します(徐々に抵抗値を変化させます)。
出力電圧Voutが
11mV・・・8mV・・・5mV・・3mV・・1mV・・0mV
となったところで、可変抵抗のボリュームを止めます(抵抗値をを固定します)。
これで調整完了です。
この方法で、オペアンプのオフセット電圧をキャンセルできます。
よくある質問:
オフセット電圧を調整する可変抵抗とマイナス電源(-V)を接続している矢印(↑)は
何を意味しているのでしょうか?
可変抵抗は、矢印のついている端子が抵抗の表面をなぞっていく構造になっています。
これにより、抵抗を矢印よりも左側と右側に分割する働きをしています。
左右の抵抗値を調整することで、左右に流れる電流の比率を変化させ、オフセット電圧を調整しています。
ところで、オフセット調整端子(OFFSET NULL)がないオペアンプは、
どのように調整すれば良いでしょうか?
次は、その解説します。
オフセット電圧を調整できるように回路をつくる
オフセット電圧を調整する端子(OFFSET NULL)を持たないオペアンプは、
オフセット電圧を調整できるように回路をつくる必要があります。
具体的に、反転増幅回路と非反転増幅回路の回路図は、下図のようになります。
反転増幅回路
非反転増幅回路
今回も可変抵抗は必要です。
ここまで作ってしまえば、あとは先程と同じです。
オフセット電圧が1mVのとき、出力電圧Voutは11mVでしたので、
可変抵抗のボリュームを徐々に回して(抵抗値を徐々に変化させて)、
出力電圧が
11mV・・・8mV・・・5mV・・3mV・・1mV・・0mV
となったところで、可変抵抗のボリュームを止めます(抵抗値をを固定します)。
これで調整完了です。
反転増幅回路も非反転増幅回路も、このような方法で、オペアンプのオフセット電圧をキャンセルできます。
よくある質問:
実際のところ、オペアンプの調整端子(OFFSET NULL)や可変抵抗を使って
調整しているところを見かけないのですが、なぜでしょうか?
最近は精度が良い(オフセット電圧が小さい)オペアンプも多くあります。
なので、オペアンプで作成した回路の増幅率が10倍程度だったら、
あまり出力電圧の誤差として気にならないことが多いです。
1000倍とか、大きく増幅する場合は、出力電圧の誤差として気になってくると思いますので、
本記事を参考に調整し、オフセット電圧をキャンセルしてください。
オペアンプのオフセットのまとめ
オペアンプのオフセットについて解説しました。
オペアンプのオフセット電圧やオフセット電流から、オフセット電圧の調整方法まで理解することができたでしょうか?
本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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【教材】トランジスタ増幅回路の設計講座
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【目次】
・第1章
トランジスタ増幅回路の基礎知識
・第2章
固定バイアス回路の設計
・第3章
自己バイアス回路の設計
・第4章
電流帰還バイアス回路の設計
講座内容の詳細は下記からどうぞ。