- MOSFETのオン抵抗を理解したい
- MOSFETのオン抵抗の温度特性について知りたい
こんな質問にお答えします。
この記事を書いている私は、約10年、電子回路設計の仕事をしています。
仕事でMOSFETを使用して電子回路を設計してますので、経験に基づいて解説します。
本記事を読み終えると、MOSFETのオン抵抗について理解できるようになりますよ。
3分で読めますので、ぜひ最後までご覧ください。
MOSFETのオン抵抗とは
オン抵抗とは、MOSFETがオンしているときの、ドレイン – ソース間の抵抗値です。
「MOSFETがオンしている」とは、
ゲート端子に信号が入力され、ドレイン-ソース間はほぼ導通している状態です。
「ほぼ導通」といったのは、完全に導通しているわけではないからです。
つまり、少しだけ抵抗があります。それがMOSFETのオン抵抗です。
このオン抵抗は、データシートの電気的特性に書いてあります。
電気的特性(Ta=25℃)
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の電気的特性(データシートより抜粋)
このオン抵抗の値は小さい方が優れています。
なぜなら、発熱が小さくなるからです。
具体的に言うと、MOSFETがオンしているときの消費電力は、
消費電力 = (オン抵抗) × (ドレイン電流)^2
という式で表すことができ、この消費電力は熱として放出されます。
つまり、
オン抵抗が小さい
→ 消費電流が小さい
→ 発熱が小さい
となるので、オン抵抗は小さい方が良いです。
「抵抗値が非常に小さな値(0.1Ω以下)だけど本当に発熱するの?」と思うかもしれませんが、結構、発熱します。
例えば、データシートの測定条件では、VGS = 4V、ID = 12Aのとき、オン抵抗RDS = 0.057Ωなので、
消費電力 = 0.057[Ω] × 12^2[A] = 8.2[W]
となり、8.2Wも発熱します。
これは決して無視できるほど、小さい値ではありません。
オン抵抗の温度特性を理解する
MOSFETのオン抵抗には、1つだけ注意点がありまして、
それは「正の温度特性」を持っているということです。
正の温度特性とは、
部品の周囲温度:高 → 抵抗:大
部品の周囲温度:低 → 抵抗:小
という特性のことです。
「正の温度特性」というからには「負の温度特性」もあります。
負の温度特性とは、
部品の周囲温度:高 → 抵抗:小
部品の周囲温度:低 → 抵抗:大
という特性のことです。
MOSFETのオン抵抗は「正の温度特性」です。
具体的に、データシートのグラフを見てみましょう。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 オン抵抗の温度特性(データシートより抜粋)
縦軸:ドレイン-ソース間 オン抵抗 RDS(ON)(Ω)
横軸:ケース温度Tc(℃)
※ケース温度とは、MOSFET素子の表面温度のこと
温度が高くなるほど、オン抵抗が大きくなっていることが分かります。
つまり、温度が高くなるほど発熱します。
「温度が高いときに思ったよりも発熱してる・・・」なんてことにならないように、
温度によってオン抵抗が変化することを把握しておきましょう。
オン抵抗の温度特性が「正」の理由
MOSFETのオン抵抗が「正の温度特性」を持つ理由は、金属的な特性をもつためです。
金属は、電子が伝導の役割をします。
温度が高くなると原子核の熱運動が激しくなるため、電子の伝導を阻害し、電子の流れが悪くなります。
「電子の流れが悪くなる」を言い換えると、「抵抗が大きくなる」ということです。
つまり、温度:高 → 抵抗:大 なので、MOSFETのオン抵抗は正の温度特性を持ちます。
確かにMOSFETは半導体素子です。
そして、半導体は「負の温度特性」を持ちます。
なので、MOSFETは半導体なのに金属的な特性(正の温度特性)をもつのに矛盾を感じると思います。
この理由ですが、以下の構造図を見てください。
これはNチャネルMOSFETの構造図です。
ゲート端子に電圧VGSを印加すると、
p型半導体のプラスの電荷がボディ端子に移動し、マイナスの電荷(電子)がゲート端子に移動します。
このゲート端子に集まってきたマイナスの電荷(電子)でチャネル(電流の経路)が形成され、
ドレイン-ソース間が導通するようになります。
このチャネル内の電子が金属的な振る舞いをするため、
MOSFETのオン抵抗は「正の温度特性」を持つことになります。
熱的に安定というのは、熱暴走しにくいという意味です。
熱暴走とは、発熱が更なる発熱を招き、温度の制御ができなくなる状態です。
熱暴走が起こると、MOSFETが劣化したり、破壊したりします。
具体的に解説します。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の入力特性(データシートより抜粋)
グラフの曲線がクロスしている点に着目してください。
このとき、VGS=3.3Vです。
VGS < 3.3Vのとき、
温度が高いほど、ドレイン電流ID(A)が大きく、
温度が低いほど、ドレイン電流ID(A)が小さいです。
VGS > 3.3Vのとき、
温度が高いほど、ドレイン電流ID(A)が小さく、
温度が低いほど、ドレイン電流ID(A)が大きいです。
これはどういうことかというと、
VGS < 3.3Vのとき、
ドレイン電流ID(A)が増える
→ MOSFET自体の温度が上がる
→ ドレイン電流ID(A)はより増える
→ MOSFET自体の温度はより上がる
VGS > 3.3Vのとき、
ドレイン電流ID(A)が増える
→ MOSFET自体の温度が上がる
→ ドレイン電流ID(A)は減る
→ MOSFET自体の温度が下がる
という状態です。
つまり、
VGS < 3.3Vのとき、
MOSFET自体の温度が上がり続けています。
これは熱暴走している状態です。
VGS > 3.3Vのとき、
MOSFET自体の温度が上がると、下がろうとするので、温度が上がり続けることはありません。
これは熱暴走しにくい状態です。
よって、MOSFETは熱的に安定(熱暴走しにくい)ですが、VGS > 3.3Vという条件が必要になります。
さらに、VGS > 3.3Vという条件には注意が必要です。
クロスしているポイントは、MOSFETの個体ごとにバラツキがあります。
なので、データシートを見るだけでは、
実際のMOSFETのクロスしているポイントを正確に把握することは難しいです。
つまり、VGSの値は「3.3V」とは限りません。
よって、常にVGSの値がクロスしているポイントよりも上にあるかどうか、
はっきりしてない状態(VGS=3.4V、3.7Vなどのギリギリの値)だと、
熱的に安定(熱暴走しにくい)とは言えないので、ご注意ください。
なお、PチャネルMOSFETでは、VGSの値はマイナスになります。
PチャネルMOSFETでも、VGSの大きさ(絶対値)が、
クロスしているポイントのVGSよりも大きければ、熱的に安定(熱暴走しにくい)状態です。
MOSFETのオン抵抗は小さくなっている
MOSFETのオン抵抗は、年々小さくなっています。
その理由は、集積化の技術が進化しているからです。
具体的に考えてみます。
そもそもMOSFETのオン抵抗を小さくするにはどうすれば良いでしょうか?
抵抗なので、シンプルに考えて並列にすれば良いのです。
例えば、5Ωの抵抗を5個並列に接続すれば、1Ωになりますね。
一応、抵抗の並列式から計算すると、
1/5 + 1/5 + 1/5 + 1/5 + 1/5 = 5/5 = 1Ω
ということです。
MOSFETも1つの部品(パッケージ)内部に、
数多くのMOSFETを並列に接続すれば、オン抵抗が小さくなります。
これを実現するための集積化の技術は年々進化しているので、オン抵抗も年々小さくなっています。
身近なもので例えると、ハードディスクが分かりやすいです。
ハードディスクの外形サイズはそれほど大きくなってないのに、
ハードディスの容量は、MB(メガバイト)→ GB(ギガバイト)→ TB(テラバイト)と大きくなってますね。
これは集積化の技術が年々進化しているからです。
このまま技術が進んでいけば、いつかMOSFETの発熱を気にしない時代が来るかもしれません。
まとめ
今回はMOSFETのオン抵抗について解説しました。
MOSFETのオン抵抗を理解することはできたでしょうか?
本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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