- MOSFETの静特性を理解したい
- MOSFETの入力特性(VGS-ID)と出力特性(VDS-ID)について知りたい
- MOSFETの飽和領域とピンチオフ電圧とは何ですか?
こんな質問にお答えします。
この記事を書いている私は、電子回路設計者として約10年になります。
仕事でMOSFETの回路を設計する際は、データシートの特性をみながら最適なMOSFETを選定しています。
なので、経験に基づいて解説したいと思います。
本記事を読み終えると、データシートをみながらMOSFETの特性が理解できるようになりますよ。
3分で読めますので、ぜひ最後までご覧ください。
MOSFETの静特性とは、入力と出力特性
MOSFETの静特性とは、以下の2つのことです。
- 入力特性(VGS – ID特性)
- 出力特性(VDS – ID特性)
VGS:ゲート – ソース電圧
VDS:ドレイン – ソース電圧
ID:ドレイン電流
入力特性は、VGSを変化させたときのドレイン電流IDの変化を示す特性です。
出力特性は、VDSを変化させたときのドレイン電流IDの変化を示す特性です。
この静特性について、データシートを見ながら解説します。
データシートの特性を見ながら、入力と出力特性を理解する
MOSFETのデータシートの特性は、ソース接地時の静特性です。
なぜなら、実際の電子回路はソース端子を接地して使用する場合が多いからです。
※ソース接地とは、MOSFETのソース端子をGNDに落としている(接続している)回路のこと。
具体的に、東芝製NチャネルMOSFET 2SK2232の
「入力特性(VGS – ID特性)」と「出力特性(VDS – ID特性)」をみていきましょう。
入力特性(VGS – ID特性)
入力特性のグラフは下図の通りです。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の入力特性(データシートより抜粋)
VGS(V)を少しずつ大きくしても、2V程度まではドレイン電流ID(A)は流れません。
2V程度を超えると、ドレイン電流ID(A)が流れるようになります。
この境界となる電圧を、しきい値電圧(スレッショルド電圧)と呼びます。
もちろん、しきい値電圧はMOSFETによって変わりまして、
2SK2232の場合は、グラフから2V程度と読み取れます。
ただし、バラツキがあるので、ご注意ください。
また、データシートの電気的特性にも記載があります。
電気的特性(Ta=25℃)
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の電気的特性(データシートより抜粋)
ゲートしきい値電圧Vthの項目に記載されています。
VDS=10V、ID=1mAのとき、最小:0.8V、最大:2.0Vとなっています。
ここからもバラツキがあることが分かりますね。
これだけバラツキがあると
「一体、何Vにすれば、確実にMOSFETをONすることができるの?」と考えるかもしれません。
その場合は、スイッチング時間の項目を見るのも一つの方法です。
測定条件で、VGS=10Vを入力していることが分かります。
スイッチングということは、ON/OFFしているので、10Vにすれば、MOSFETをONできるということです。
※「MOSFETをONする」の意味がわからない方は、
後述する「出力特性(VDS – ID特性)」で、しっかりと理解しましょう。
これまで解説した通りです。
曲線(グラフ)は、先程の2SK2232の入力特性のグラフになります。
なお、グラフは、
ID=K(VGS-Vth)^2
という数式で表すことができます。
(※Kは比例定数であり、データシートには記載されていません。)
ID=0のとき、VGS=Vthになります。
よって、入力特性のグラフから、ID=0となるVGSの電圧がVthになります。
以下のような違いがあります。
エンハンスメント型:VGS=0のとき、ドレイン電流IDは流れない
デプレッション型:VGS=0のとき、ドレイン電流IDは流れる
これを「電気的特性」と「構造」の観点から解説します。
電気的特性
先程の東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232はエンハンスメント型です。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の入力特性(データシートより抜粋)(再掲)
入力特性のグラフを見てみると分かりますが、VGS=0のとき、ドレイン電流IDは0(A)です。
VGS=2Vぐらいまでドレイン電流IDは0(A)ですね。
これに対して、デプレッション型のNチャネルMOSFET LND150の入力特性(VGS – ID特性)を見てみます。
デプレッション型のNチャネルMOSFET LND150の入力特性(VGS – ID特性)(データシートより抜粋)
VGS=0のとき、ドレイン電流IDは1~2(A)ぐらい流れています。
つまり、電気的特性の観点から、
VGS=0のとき、電流が流れているか、流れていないか
という違いがあることがわかります。
この違いの理由を、MOSFETの構造で解説します。
構造
違いの理由は、VGS=0のとき、
エンハンスメント型:
電流が流れない → 電流の経路(チャネル)が形成されてない
デプレッション型:
電流が流れる → 電流の経路(チャネル)が形成されている
ということです。
つまり、構造の観点から、
VGS=0のとき、電流が流れる経路があるかないか
という違いがあることがわかります。
MOSFETの構造をもっと理解したい方は、以下の記事を参考にどうぞ。詳しく解説しています。
参考記事:MOSFETの構造図と動作原理【NチャネルとPチャネル】
出力特性(VDS – ID特性)
出力特性のグラフは下図の通りです。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の出力特性(データシートより抜粋)
VGS(V)を3Vに固定したとき、
VDS(V)を少しずつ大きくしていくと、
ID(A)が0Aから急激に大きくなり、10Aになります。
同様に、
VGS(V)を3.5V、4V、4.5Vに固定したとき、
VDS(V)を大きくしていくと、
ID(A)が0Aから急激に大きくなり、18A、29A、40Aになります。
つまり、このグラフは、
①ドレイン電流ID(A)が急激に大きくなる部分
②ドレイン電流ID(A)が一定になる部分
というように2つに分けることができます。
それぞれを
①線形領域
②飽和領域
と呼びます。
また、VDS(V)の値に関わらず、ID(A)が0Aに近い領域を
③遮断領域
と呼びます。
この3つの領域は、
①線形領域、③遮断領域 → スイッチのON/OFF
②飽和領域 → 信号増幅
という用途で使用します。
それぞれ解説していきます。
線形領域と遮断領域
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の出力特性(データシートより抜粋)(再掲)
繰り返しますが、ドレイン電流ID(A)が急激に大きくなる領域を線形領域と言います。
厳密に「VDSが何V以下の範囲」と表現するのは難しいですが、大体、上図の赤枠の部分です。
また、ドレイン電流ID(A)が0Aに近い領域を遮断領域と言います。上図の青枠の部分です。
これらの領域は、MOSFETをスイッチとして使用することができます。
なぜかというと、それぞれの領域の特徴を考えてみると分かります。
線形領域:
VDS(V)が0Vに近い領域である
遮断領域:
ドレイン電流ID(A)が0Aに近い領域である
この特徴をスイッチと比較します。
スイッチONのときは、ドレイン-ソース間は導通しているので、VDS(V)は0Vになります。
つまり、線形領域のときは、スイッチONの状態といえます。
スイッチOFFのときは、ドレイン-ソース間は導通してないので、ドレイン電流ID(A)は0Aになります。
つまり、遮断領域のときは、スイッチOFFの状態といえます。
よって、MOSFETをスイッチとして使用するときは
線形領域 → スイッチON
遮断領域 → スイッチOFF
となります。
飽和領域とピンチオフ電圧
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の出力特性(データシートより抜粋)(再掲)
ドレイン電流ID(A)が一定になる領域を飽和領域と言います。上図の緑枠の範囲です。
この領域は、MOSFETを信号増幅として使用することができます。
理由は、入力電圧VGS(ゲート – ソース電圧)に対してドレイン電流ID(A)が大きくなっているから。
例えば、グラフをみると、
VGS = 3V のとき、ドレイン電流ID = 10A
VGS = 3.5V のとき、ドレイン電流ID = 18A
VGS = 4V のとき、ドレイン電流ID = 29A
VGS = 4.5V のとき、ドレイン電流ID = 40A
となっており、VGSを大きくしていくと、ドレイン電流IDも大きくなっていることが分かります。
よって、MOSFETを使って信号増幅するときは、この飽和領域を使用します。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 の出力特性(データシートより抜粋)(再掲)
ピンチオフ電圧とは、線形領域と飽和領域の境界となる電圧です。
VDSを少しずつ大きくしていくと、線形領域から飽和領域に移行します。
この移行する瞬間のVDSがピンチオフ電圧です。
グラフを見ると、ピンチオフ電圧の線は右肩上がりになっていますね。
VGSが大きいほど、ピンチオフ電圧も大きくなっています。
VGSによって、ピンチオフ電圧は変化するということです。
余談ですが、
VGS = Vth(しきい値電圧)のとき、ピンチオフ電圧は0になります。
つまり、ピンチオフ電圧は
ピンチオフ電圧 = VGS - Vth
と表すことができます。
また、デプレッション型MOSFETも同じです。
デプレッション型のNチャネルMOSFET LND150の出力特性(VDS – ID特性)(データシートより抜粋)
デプレッション型MOSFET「LND150」の出力特性で、グラフに示した線のVDSがピンチオフ電圧です。
一般的には、高い方だと思います。
先程、解説した通り、MOSFETはスイッチとして使用することができます。
「1Aまで流せるスイッチ」と「5Aまで流せるスイッチ」があったら、
「5Aまで流せるスイッチ」の方が、性能は良いです。
ただし、高周波で動作させる場合は、どちらの方が性能が良いかは一概にはいえません。
なぜなら、ドレイン電流の定格が高い方のMOSFETは、ゲート端子の静電容量が大きいので、
高周波で動作させると、うまくON/OFFできないからです。
静特性(入力と出力特性)の測定方法
MOSFETの入力特性と出力特性の測定は難しくありません。
具体的な測定回路は以下の通り。
静特性(入力と出力特性)の測定回路
VGS(V)は、入力の可変抵抗CW1で調整する。
VDS(V)は、出力の可変抵抗CW2で調整する。
入力特性(VGS – ID特性)を測定するには、
VDS(V)を一定の電圧に固定した状態で、VGS(V)を徐々に変化させます。
その時のドレイン電流ID(A)を測定し、グラフにプロットすれば入力特性が分かります。
出力特性(VDS – ID特性)を測定するには、
VGS(V)を一定の電圧に固定した状態で、VDS(V)を徐々に変化させます。
その時のドレイン電流ID(A)を測定し、グラフにプロットすれば出力特性が分かります。
ただし、1つだけ注意点があります。
パワーMOSFETのように大きな電流を流して測定する場合、FET自体が発熱し、正確に測定できません。
そのため、パルス信号を入力することで発熱を抑えて測定しています。
例えば、東芝製NチャネルMOSFET 2SK2232も、実はパワーMOSFETです。
この場合、データシートには「パルス測定」とか、「Pulsed」という記載があります。
東芝 NチャネルMOSFET 2SK2232 のパルス測定 表記(データシートより抜粋)
パルスを入力して測定したい場合は、データシートに記載されている条件で測定するようにしましょう。
とはいえ、データシートに測定条件が記載されてないことも結構あります。
そのときはメーカに測定条件を問い合わせるしかありません。
これまで解説した通り、MOSFETの素子の特性が分かります。
データシートから特性が分かれば、わざわざ自分で測定しなくても良いのですが、
稀に静特性の記載がないFETがあります。
その時は、測定する必要があります。
ただ個人的には、静特性をデータシートに記載してないMOSFETは、選ばない方が良いと考えています。
特に問題のないMOSFETなら静特性ぐらい記載すると思います。
いずれにせよ、この静特性に基づいて電子回路の中でどのように動作させるかを決めるので、
MOSFETで一番重要なパラメータといっても過言ではありません。
疎かにしないようにキチンと理解した方が良いでしょう。
まとめ
今回はMOSFETの静特性について解説しました。
MOSFETの静特性を理解することはできたでしょうか?
本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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【目次】
・第1章
トランジスタ増幅回路の基礎知識
・第2章
固定バイアス回路の設計
・第3章
自己バイアス回路の設計
・第4章
電流帰還バイアス回路の設計
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