出典:NEC
- DEMITAS NXの共振解析について知りたい
- 共振解析のシミュレーションを見てみてたい
こんな要望にお答えします。
本記事を書いている私は電子回路設計者として約10年になります。
DEMITAS NX(デミタスエヌエックス)はプリント板シミュレータです。
私は仕事でプリント基板を設計するとき、DEMITAS NX を必ず使います。
その経験に基づいて、プロの方向けにDEMITAS NX の解説をします。
本記事を読めば、DEMITAS NX でよく使われる共振解析が分かるようになりますよ。
5分程度で読めますので、ぜひ最後までご覧ください。
DEMITAS NX の共振解析とは
DEMITAS NX の共振解析は、「電源・GNDプレーン共振解析」といいます。
その言い方の通り、プリント基板の電源層とGND層の共振を解析します。
とはいわれても共振って何?って方のために、よくある4層基板で解説します。
【4層基板】
L1層:信号+電子部品
L2層:GND
L3層:電源
L4層:信号+電子部品
上記が、4層基板の構成です。
ここで、L2層のGNDとL3層の電源は銅箔の平面(プレーン)です。
このL2層とL3層の間には、プリプレグという材料で絶縁していますが、これが誘電体となります。
つまり、銅箔(金属)の面に誘電体が挟まれているので、コンデンサとして働きます。
また、銅箔にはインダクタンス成分があるので、このインダクタンスとコンデンサで共振回路を形成します。
L1層とL4層にある電子部品は電源とGNDに繋がっています。
この電子部品が発生する電流変化の周波数と、共振回路の周波数が一致すると、
プレーン共振(面共振)となり、基板からノイズが放射することになります。
DEMITAS NX の共振解析のメリット
DEMITAS NX で共振解析をすると、基板から放射するノイズに対して、設計段階で対策を打つことができます。
なぜなら、プレーン共振解析のシミュレーションを実行すると
「共振しているノイズの周波数」が分かるからです。
例えば、150mm×100mmの基板サイズの電源層とGND層であれば、
735MHzぐらいで共振することが知られています。
実際の基板はサイズが様々でして、自分の設計した基板が、どの周波数で共振するか分かりません。
しかし、DEMITAS NXでシミュレーションを実行すれば、それが簡単にわかります。
共振周波数がわかれば、その周波数のノイズを抑制するように、以下の対策を打つことができます。
電源層やGND層の形状を変更する
コンデンサを追加する
RCスナバを追加する
この中で「コンデンサを追加する」というのが、一番簡単にできるので、よくやる対策です。
このように実際に基板を作る前の設計段階で対策を打てるので、後戻りを減らすことができます。
実際に共振解析をシミュレーションする
DEMITAS NX の使い方
DEMITAS NXの使い方を解説します。デフォルトで用意されているデモ用プログラムで解説します。
1. DEMITAS NXを起動する
こんな感じの画面になります。
デモ用プログラムのファイルを読み込むと、黒い画面に基板のデータが表示される。
2. メニューの[ファイル] → [開く]で、以下のファイルを読み込む。
sample_nowire.dsn
(DEMITASNXフォルダ内、あるいはDEMITASNX→demoフォルダにある)
※上記のファイルが見つからない場合は、いくつかのファイルを開いてみて、
以下のようなファイルが開けば良いです。拡張子が.layの場合もあります。
3. メニューの[編集] → [属性設定] → [部品属性] を選択すると、Excelが開く。
「インスタンス名」がCで始まるものに対して、以下の2点を確認する。
・「タイプ」に半角文字で『capacitor』が入力されていること
・「解析モデル名」に半角小文字で『c104』が入力されていること
確認出来たら、左の[実行ボタン]の「終了」をクリックしてExcelを閉じる。
このとき、「属性をセットしていません。属性をセットしますか?」と表示されたら「いいえ」を選択する。
『capacitor』と『c104』が入力されてない場合、手動で入力する。
(Excelなので、コピペ機能を使えば簡単に入力できる。)
全ての入力が終わったら、「属性セット」をクリックした後、「終了」を選択しExcelを閉じる。
4. 画面左にある表示設定を以下のようにする。
層名 | 表示設定 |
---|---|
1 | 表示ON |
2 | 表示OFF |
3 | 表示ON |
4 | 表示ON |
※2層を表示ONにすると、次のプレーン共振解析で3層を選択できなくなる。
次のプレーン共振解析のため、2層の表示をOFFにしておく。
5. メニューの[EMI] → [プレーン共振解析]を選択すると、ウィンドウが開く。
基板の中央をクリックすると、3層の電源層(VCCプレーン)を選択したことになるので、
[プレーン共振解析] ウィンドウが以下のようになっていることを確認する。
確認できたら、「解析」をクリックして共振解析を実行できる。
共振解析のシミュレーションを実行する
1. [プレーン共振解析] ウィンドウで「解析」を選択して共振解析を実行する。
10秒ぐらいで解析が完了し、 [電圧分布表示] ウィンドウと解析結果が表示される。
赤に近い色 → 電圧変動が大きい
青に近い色 → 電圧変動の小さい
※電圧変動の大きい部分からノイズが放射される。
2. [電圧分布表示] ウィンドウの「周波数特性表示」を選択すると、
周波数ごとの解析結果がExcelで表示される。
横軸:周波数(0~1000MHz)
縦軸:最大電圧(-40.0~10.0dB)
675MHz付近で、「最大電圧(青線)」が「許容最大電圧値(赤線)」を超えいているので、
「判定:NG」という結果になっています。
※675MHzのノイズが基板から放射されるということ。
3. [電圧分布表示] ウィンドウの「閉じる」をクリックして、一度閉じる。
このようにDEMITAS NXで、共振解析のシミュレーションを実施すると、
基板のどこからノイズが出てるか
どの周波数のノイズが出ているか
ということが分かります。
それが分かれば、ノイズを抑制するように対策を打つことができます。
シミュレーション上で対策する
「最大電圧」が「許容最大電圧値」を超えないように対策します。
対策方法は「コンデンサの追加」です。
電圧が大きく変動している箇所にコンデンサを追加し、ノイズを抑え込みます。
実際にやってみます。
1. メニューの[EMI] → [プレーン共振解析]を選択し、[プレーン共振解析]ウィンドウを開く。
2. 「Cap自動」を選択すると、[自動キャパシタ配置]ウィンドウが開くので、「実行」を選択する。
3. 10秒ぐらいで解析が完了し、 [電圧分布表示] ウィンドウと解析結果が表示される。
先程よりも、赤に近い色(電圧変動が大きい部分)が少なくなっていることが分かります。
この理由を引き続き説明します。
4. [電圧分布表示] ウィンドウの「Capリスト」を選択すると、[Capacitorリスト]ウィンドウが開く。
「DEMICAP_1」と記載されているものが、今回追加されたコンデンサです。
5. 「DEMICAP_1」を選択し、「検索」をクリックすると、追加したコンデンサが拡大表示される。
ここにコンデンサが追加されたことにより、赤に近い色(電圧変動が大きい部分)が少なくなったということ。
6. [電圧分布表示] ウィンドウの「周波数特性表示」を選択する。
オレンジ色:
No.1 対策前の波形
(コンデンサ追加前の波形)
青色:
No.2 対策後の波形
(コンデンサ追加後の波形)
対策前は675MHzで「許容最大電圧値(赤線)」を超えていましたが、
対策後は「最大電圧(青線)」が「許容最大電圧値(赤線)」より小さくなっていることが分かります。
判定も「OK」となっています。
つまり、コンデンサの追加で、プリント板からの放射ノイズを抑えることができました。
DEMITAS NXを使うと、対策が簡単
このように、共振解析のシミュレーションを実行すると、実際に基板を作る前に、簡単に対策できます。
しかもコンデンサの配置を自動で決めてくれるので、ずいぶんと楽ですね。
なお、コンデンサは手動で配置する方法もあります。
電圧分布表示の画面上に、自分でコンデンサを配置できます。
赤に近い色の部分(電圧変動が大きい部分)にコンデンサを配置すれば、
電圧変動を抑えられ、放射ノイズを抑制できます。
とはいえ、個人的には今回解説したように、自動でコンデンサを配置する方法がおすすめです。
電圧変動を抑えられる最適な場所に、自動でコンデンサを配置してくれるので、非常に楽ですね。
共振解析シミュレーションの注意点
注意点としては、設定を間違えてもエラーとはならず、シミュレーションを実行してしまうことです。
具体的に解説します。
これまでに、
メニューの[編集] → [属性設定] → [部品属性]
を選択して、Excelに『capacitor』や『c104』を設定しました。
(デフォルトで設定されていることもあります。)
これを設定することで、プリント板上に配置されているコンデンサを
DEMITAS NX に認識させることができます。
逆に『capacitor』や『c104』を設定しないと、
プリント板上にあるコンデンサが存在しないものとしてシミュレーションしてしまいます。
その時の解析結果は以下になります。
『capacitor』や『c104』を設定したときと比べて、
赤に近い色(電圧変動が大きい部分)が大きくなっています。
このように間違ったままシミュレーションを実行できてしまうので、
設定が間違ってないか、よく確認するようにしましょう。
まとめ
今回は、DEMITAS NXの共振解析について解説しました。
共振解析について理解することはできたでしょうか?
本記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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